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50年後の再挑戦
~地籍調査事業への参画~



宮城県土地家屋調査士会
副会長 南 城 正 剛


昭和25年、
土地家屋調査士法が制定された年の
宮城県土地家屋調査士会理事会資料の中に
次のような記載がある。
「来年国土調査法が制定される。
土地家屋調査士は地籍調査に参画すべく行動しなければならない。」
そして今、
国土交通省は土地家屋調査士の地籍調査事業への参画を提唱している。
50年後の再挑戦の始まりである。

1.はじめに
 国土調査法が施行されてから50年を経た今、地籍調査事業の進捗率は全国で43%と低く、 特に土地の利用や取引が活発な都市部での進捗率は17%と極端に低くなっている。 この現実に対応すべく、平成12年度に閣議決定された第5次国土調査事業十箇年計画では、 「一筆地調査における外部技術者の活用」、「市街地における調査の包括的な外部委託事業の導入」、 「土地所有者等の立会制度の弾力化」、「民間の宅地開発等が行われた一定の地域を対象とした簡便な 地籍調査手法の導入」等の新たな調査手法を導入し、地籍調査を積極的に推進しようとしている。 この新十箇年計画の中での新たな試みとして導入された、土地家屋調査士等の外部専門家の活用は、 土地家屋調査士にとって制度制定以来50年にわたり不動産登記制度をとおして、権利の客体である 土地の物理的状況を明確にすることを主な業務としてつちかってきた、一筆地調査・筆界確認の 専門的職能を生かす絶好の機会である。また、地籍調査事業は社会基盤整備として重要であると共に 土地所有に関する権利の保全と明確化に資することから、土地家屋調査士は地籍調査事業に積極的に 関与していくべきものと考える。
 ところで、地籍調査の現状を「調査」と「測量」の両面から考察してみる、測量関係では測量機器や コンピュータのめざましい発達、GPS・RTK-GPS等の測量方法、GISによる土地情報管理・ 利用等、技術面での研究・開発が図られ成果をあげている。一方調査関係では、一筆地調査における 立会いの弾力化が図られることになり、立会い業務の進捗と筆界未定解消に効果が期待されるところで あるが、筆界確認上の問題は他にも存在していると思われるので、今後の対応が求められている。 また、地籍のデータや地籍図根点の維持管理に関する制度上・運用面での課題、地籍に関する省庁並びに 専門資格者が一元化されていないこと等、地籍全体のシステムに関わる課題も存在しているようだ。 これらの課題について、筆界確認の専門家であり、また、日常業務において地籍調査の成果を多く 利用していることから地籍調査の成果の維持管理に強い関心を持っている土地家屋調査士、また、 これから地籍調査事業に参画すべき土地家屋調査士として、地籍制度について考える。

2.地籍と土地家屋調査士
 土地家屋調査士が「地籍」を語る前に、地籍と土地家屋調査士の関わりについて説明する。 日本における近代地籍(税地籍)は、明治政府が土地の個人所有を認めて土地から税を徴収することから 始まった。地租を徴収するためには土地の状況を正確に把握することが必要であることから、明治政府は 課税のための基礎資料として土地台帳や土地台帳附属地図(公図)を整備した。これが現在でいう地籍簿と 地籍図である。地租に関わる制度は幾多の変遷を経ているが、所管していたのは全て税務関係の 官庁が所管していた。戦前、税務署から土地の異動に対しての調査を委嘱されていた土地調査員という制度が あったが、土地調査員の中から土地調査員を国家資格制度にしようとする動きがあり、昭和25年に 議員立法により土地家屋調査士制度が制定された。また、この年には地租が国税から地方税に変更する 税制改正が行われたことにより土地台帳が法務局に移管され、土地の異動(地籍の異動)は登記所により 行われることとなった。次いで昭和35年には土地台帳法が廃止されて土地台帳と登記簿が一元化された。 このように、土地家屋調査士の前身として税務署から委嘱を受けていた土地調査員は適正な税徴収のために 土地の異動を調査する業務で地籍に関わり、土地家屋調査士制度制定後は不動産登記法の権利の客体としての 不動産の明確化に寄与するという分野で、制度制定以来50年にわたり地籍に関わる業務を行っている。

図.2.1 地籍制度の主な変遷と土地家屋調査士制度の制定

    明治 5年 地券発行・地券台帳備付
    明治 6年 地租改正法
    明治17年 地租条例
    明治19年 登記法
    明治22年 土地台帳規則・土地台帳備付
    明治32年 不動産登記法
    昭和 6年 地租法
    昭和22年 土地台帳法
 

3.地籍と登記
 次は、地籍制度における登記の役割である。図3.1に示すとおり地籍調査事業では計画的・広範囲に 地籍簿・地籍図を作成しているのに対し、登記は異動がある都度一筆単位の異動を扱っている。 地籍調査で得られた正確な地籍情報の異動を正確に修正していかなければ地籍調査で得られた 地籍情報が不正確なものとなってしまう。この一筆単位の土地の異動は1年間で約900万筆に およんでいる(表3.1参照)。日本の登記されている土地の総筆数は約2億7千万筆と言われているが、 1年で900万筆の異動があるということは1年で約3%の土地に異動が生じていることになり、 これが10年続くと全体の約3割の土地に異動があることになる。地籍制度における登記の役割の重要性を 示すデータである。

図.3.1 地籍制度における地籍調査と登記

表3.1 平成11年 不動産の表示に関する登記(地籍の異動・修正に関する登記)

法務大臣官房司法法制調査部調査統計課
「第113民事訟務人権統計年報Ⅰ 平成11年」(平成12年)
 

4.地籍の概念
人に関する情報を記録(登録)したものが【戸籍】であり、土地に関する情報を記録(登録)したものが 【地籍】である。地籍の概念や地籍制度は国の体制・文化・地形等により様々であり、歴史と共に変化して いる。歴史的に地籍の変遷をまとめたものが図4.1である。地籍の最も古い概念は「土地の課税の手段と しての地籍」であった。ついで土地の所有権が認められるようになると課税以外に権利を保護する必要から 「土地の所有権の保護手段としての地籍」となり、最近はコンピュータの発達にともない大量の情報を処理 出来ることから、「土地情報システムとして土地に関する全ての情報が登録され、多目的に利活用できる 総合システム」へと変化している。

図4.1 地籍の概念の変遷
 

5.日本における地籍制度の現状
 日本における地籍制度に関する法律は多岐にわたっている。地籍の成果を作る部分の主なものとして 「国土調査法」があるが、他にも「土地区画整理法」・「土地改良法」・「都市計画法」・ 「不動産登記法」等がある。地籍調査の成果が法務局に送付されると、公示・異動は「不動産登記法」の 出番となる。登記簿が書きかえられると共に地籍図は不動産登記法第17条地図として備付けられ、 その後の異動は表示に関する登記により修正される。異動情報は法務局から自治体に「地方税法」により 通知され、自治体は「地籍調査作業規定準則」により地籍簿・地籍図の補正を行う、というシステムに なっている。これに関連する国家資格も「測量士」・「土地区画整理士」・「土地改良換地士」・ 「土地家屋調査士」と多く、関係官庁は「国土交通省」、「国土地理院」、「法務省」、「自治体」と なっている。このように多くの法律・関係官庁・専門資格者が関わっている日本の地籍制度の土地家屋 調査士の立場から検証を試みる。

図5.1 地籍成果の作成と地籍の異動
  5.1 制度の課題
 昭和35年、土地台帳法が廃止され登記簿に表題部が新設されたことにより、日本の地籍制度は 「一元化」されたといわれている。確かに土地の現況を表す土地台帳と権利関係を公示する登記簿が 1つになったのだから「一元化」されたのであろうが、実体的にも一元化されのだろうか。
 日本においては地籍に関係している法律・関係官庁・関連専門資格が多岐にわたっており、 それぞれの法律の目的は異なるものの結果として地籍に関わっているというのが現状であり、 地籍制度全体を俯瞰した形での法律体系や行政組織にはなっていない。これは、土地政策としての地籍制度に 対する基本理念が無いままに土地台帳と登記簿を一元化して地籍制度を維持しようとしところに原因が あるのではないかと考えられる。また、日本では地籍制度について体系的に議論・研究することもなされて いなかった。戦前、日本・韓国・台湾の地籍制度はほぼ同じであったものの、韓国・台湾には地籍学会が 存在し、韓国では十ヶ所ほどの大学に地籍学部があり地籍の研究と人材育成を行っている。
 遅まきながらも、日本土地家屋調査士会連合会では制度制定50周年記念事業として 「地籍国際シンポジウム」を開催し、外国の地籍制度との比較、内外の行政担当者・研究者・ 専門資格者(実務家)等により「調査・測量」・「公示制度」・「地図・土地情報」・「土地境界」 に関しての研究報告や意見をいただいた。このようなシンポジウムにおいて「地籍制度」を論じ英知を 出し合うことで、日本の地籍制度の課題を明らかにするとともに、目指すべき地籍制度の実現が図られる ことになると思う。
 一方、地籍制度全体の見直しは法律改正が伴うことから将来のこととして、地籍調査事業の推進と諸課題の 解決のためには縦割行政の弊害を取り除き、現行制度内での関係省庁と関係専門資格者の連携が不可欠では ないだろうか。

5.2 数値データの維持管理
 地籍調査においては法務局に成果を送付して一連の事業が終了するが、成果を利用することを考えた時、 成果が適確に維持管理されていることが重要になってくる。
最近の地籍調査による成果はほとんどが数値データである。このデータは実施主体である自治体には保管 されるが、地籍調査の成果を公示している法務局ではあまり活用していないと思われる。法務省でも登記簿 のコンピュータ化や地図管理システムを導入し地図のデジタル化に取り組んでいるが、地籍調査による 数値データの利用は少ないようである。多額の費用と時間をかけて作った成果を無駄にしないためには、 法務局で数値データの管理をすべきである。地籍の成果を公示している法務局が数値データを管理して 公示することにより、その数値データを使って地籍の異動を登記に反映でき、異動データが地方税法に より自治体に送られ、自治体でも数値データにより異動の修正や維持管理ができることとなる。

5.3 地籍図根点の維持管理
 地籍調査のデータを利用して境界の復元作業を行っている土地家屋調査士の立場では、 図根点が管理されていないことが致命傷となる。図根点が無いと登記申請書に添付する地積測量図のデータ が任意座標にることから、国家座標に連動した数値データを持つ17条地図がいつの日か公図と同じ絵図面に なる可能性さえある。また、図根点がないと境界復元に多くの時間と費用がかることから、依頼人である土地所有者は 地籍調査への不信感を持ってしまう。国土調査法では標識等の設置・移転・保全について規定しているが、 一部の自治体で管理条例を制定しているだけで、ほとんどの自治体では実質的な管理が行われていないのが 現状であると思われる。積極的な図根点の維持管理が強く望まれる。

5.4 地籍成果の利活用のために
地籍調査の数値データを法務局で適確に管理し、自治体は図根点の維持管理を行い、 土地家屋調査士は図根点を用いて国家座標を使って測量をする。異動データは自治体においても同様に 維持管理を行うという全体の流れが確保され、そして実行されることにより地籍のシステムが完全に 機能するとも考える。地籍図をベースマップとしたGISを構築し、地籍調査の成果を充分に利活用するため にも、数値データと図根点の維持管理は欠かせないのである。

6.一筆地調査
 6.1 一筆地調査の現状

    地籍調査事業を進める上で支障になっているのが一筆地調査の抱える諸問題である。 一筆地調査は地籍の明確化にとって重要な要素となることから適正な調査が求められるのであ るが、次のような問題から土地所有者間の調整に多くの時間と専門能力が必要となり、これ が地籍調査事業実施の遅れの大きな原因となっている。

    6.1.1 土地所有者の理解・協力が得られない。

       住民の中には土地境界の立会いという言葉を聞いただけで拒否反応や身構えてしまうような境界アレルギー の人がいる。また、都市部で多く見られるのが地域にとけ込んでいない人や無関心派の人々だ。開発行為に よりできた道路の所有者が開発業者のままになっており、開発業者が倒産した場合も面倒だ。
    6.1.2 理解・協力は得られるが筆界の確認が困難
       お互いの主張する境界が相違する場合は通常のケースだが、筆界と所有権界の違いを理解できないことを 原因とするケース、筆界とは無関係の相隣関係が原因で境界確認が進まないことも多くある。 自分の考えだけを主張し、極力土地を多く確保したいという欲張りの人には困惑してしまう。
    6.1.3 理解は得られるが物理的に困難
       所有者が遠隔地に住んでいる場合、理解を得られても旅費や日程の関係で現地に来ることができないことが ある。また、病気療養中や長期海外赴任の為立会いに出られない事例もある。共有者が多数の場合や相続が 開始しているものの相続登記が終わっていないことから所有者が多数になることもあり、境界確認に苦労 する。
    6.1.4 一筆地調査に携わる人材の確保
       一筆地調査や立会い業務には専門的知識と経験が要求されるが、自治体の人員確保が難しいようだ。
    6.1.5 時間的・費用的な問題
       都市部の立会い業務は、地価が高いため権利意識が強いこと、土地が細分化されていること、 権利関係が複雑であること、不在地主が多いことから、筆界の確認や利害関係者の調整に時間がかかると 思われる。現在の予算内での業務遂行に困難が予想される。

6.2 筆界理論の研究と人材育成
 地籍測量の基礎が基準点であるように、一筆地調査における立会い業務は地籍の明確化 と安定の基本になる部分だ。既存資料や所有者の証言・現況などを調査して理論的な筆 界の確認に努めると共に、隣接土地所有者間の調整には充分な時間と説明が必須となる。 このためには地籍に関する゜法律的知識や技術をもった人材が必要となるが、日本においては地籍に関する 専門の教育機関が存在しないことから、地籍調査の実施主体である自治体において人材の確保・教育に苦慮していると聞く。 地籍調査事業は今後も続けられることであるとともに、地籍調査の終了した自治体に合っても地籍データの維持管理は 永遠に続きものであることから、大学や測量専門学校等に地籍全般にわたり教育する地籍学部等を創設し、 人材育成に努めることが必要であろう。
 また、境界確認についての立会いの弾力化や外部専門資格者の利用が導入されたことにより立会い業務は一部改善されるだろうが、 筆界に関しては、筆界・所有権界の区別が一般の人には理解されていないこと、隣接土地所有者の理解や協力が得られないときの 対応等、実務免での課題も多い。そもそも日本の法律においては境界を定義づけた条文が存在しておらず、 民法に境界に関する条文があるものの、境界に争いがあった場合の解決方法について規定していない等、 不十分であることは否めない。土地家屋調査士は実務において境界に関してのさまざまな問題点を実感している 唯一の国家資格者であることから、法律家とともに境界に関する法理論の研究をおこなうことにより、 地籍調査における境界確認作業の円滑な進捗と土地所有者間の境界に対する紛争の早期解決に寄与しなければならないと考える。

7. 法17条地図の課題
 地図は地籍の明確化にとって重要なものである。地籍調査の成果として法務局に送付されてくる 地籍図は不動産登記法第17条地図として備え付けられ、登記申請に添付する地積測量図の筆界が 17条地図と符合していることを求めてくるほどの絶対的な地図として取り扱われている。 しかしながら昭和30~50年の間に行われた地籍調査の地籍図の中には、筆界の確認をしていないもの、 現況主義で境界を確認しているもの、測量精度が極端に劣るもの等、17条地図としての正確性・信頼性に 欠けるものが見うけられることから地図行政・登記行政を複雑・困難なものにしている。 これらの問題は全国から報告されており、抜本的な対策を取っている自治体も少ないのが現実だ。 一方、土地所有者にあっては地籍調査の誤りを個人で訂正せざるを得ない場合もあり、 経済的・心理的に多大の負担を強いている。中には地図訂正が出来ずに売買や建築が滞ることもある等、 問題が深刻なケースもあるようだ。日本土地家屋調査士会連合会では、このような17条地図の指定解除や 地図に準ずる図面の取り扱いをするよう要望しているところであるが、現場の土地家屋調査士にあっても このような問題を解決する為に、過去に実施した地籍調査の課題の解決について積極的に参画し、 地籍の明確化と安定に貢献すべきではないだろうか。

8. おわりに
 地籍調査を積極的に推進するには、国民の理解が不可欠である。 このためには地籍調査の成果が土地の利用・取引・財産管理に役立つことが国民に直接実感できること、 また、国や地方自治体の行政にあっては、地籍調査を実施することにより事業の省力化・効率化が図れる ことを実証し、この効能を国民にPRすることが必要だ。より実効のある地籍調査事業を進めるために、 関係省庁・関係専門資格者が連携し、日本における地籍制度や現行のシステムの再検証を行うとともに、 これを改革していくことが国民に地籍調査を理解していただく最善の道と考える。
 土地家屋調査士は登記業務をとおして地籍の成果を常に利用していることから、現在の地籍の成果・ 地籍制度の現状を一番理解している国家資格者であると思う。成果を使う立場の調査士、そして50年に わたり地籍の異動、土地境界の確認業務を行ってきている調査士は、地籍調査事業に参画すべき適任者で あることに間違いないのであるから、調査士の職能を生かして地籍調査の推進と成果の維持管理に貢献 しなければならない。
 200年前、伊能忠敬は自ら歩いて日本全体の形を地図に表し、100年前の明治政府は税地籍としての  土地台帳と公図を短期間に作り上げた。21世紀元年の今、地籍に携わる土地家屋調査士は後世に評価  されるような「21世紀の地籍図」を作り上げなければならない。