第5回国際地籍シンポジウムの報告
副理事長 小松陽一
錦繍の京都において11 月13 日(月)、14 日(火)の両日、日本土地家屋調査士会連合会が主催する、平成18 年度特別記念事業「第5回国際地籍シンポジウム/土地家屋調査士全国大会 in Kyoto」が開催された。
不動産登記法の全面改正に伴い関係法令が相次いで改正され、オンライン登記申請制度・筆界特定制度・土地の境界紛争における民間紛争解決手続等の新たな制度が創設されたことにより、社会の利便に供する専門職能としての土地家屋調査士が、更に新たな役割を担うことになったことを記念して、「地籍・地図・境界」をテーマにわが国の地図・地籍に係わる諸機関・諸団体、韓国・台湾の政府等関係機関、学会、学者、実務家等の参加協力を得て「第5回国際地籍シンポジウム」を中心とした「土地家屋調査士全国大会」が開催されたものである。
会場となったのは、1966年(昭和41年)に竣工した国立京都国際会館で、1997年(平成9年)に開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)で「京都議定書」が採択された会場として有名なところである。合掌造りのような建築様式が印象的であった。
宮城公嘱協会からは、岩渕理事長、浅野副理事長、小松副理事長、酒井総務部長の4名が参加したが、第2日目である14日は全国公共嘱託登記土地家屋調査士協会連絡協議会の理事長会議が大阪で開催されるため、第1日目だけの参加となった。
第1日目は、午後1時から大会議場において開会式が開催された。会場は2000人も収容できる大きな会議場ですが、全国から集まった土地家屋調査士会員のほかに、一般市民の参加者もいたのだろうか満席状態であった。韓国、台湾からの参加者もおり、同時通訳や映写の設備を利用しての開会式であった。
大会議場における開会式と、法務省寺田逸郎民事局長の「見出す境界、消えゆく境界」と題する基調講演が終えて、午後2時30分からは、国際地籍シンポジウム分科会が4つの会場に別れて、それぞれのテーマで開催された。宮城公嘱協会から参加した4名はそれぞれテーマ別に分かれて参加した。各会場におけるテーマとその目的、研究論文発表者、パネリストなどの概要をプログラム・予稿集をもとに報告する。
【第1会場】テーマ:『平成検地 ~日本の挑戦』(参加者:岩渕理事長)
平成15年6月、首相の指示のもとに、都市再生本部において「民活と各省連携による地籍整備の推進」の方針が示され、法務省や国土交通省を中心に過去に例を見ないほどの積極的な取り組みが展開されている。例えば、法務省関係としては、平成16年に「裁判外紛争解決手続きの利用の促進に関する法律(ADR基本法)」が成立し、平成17年には不動産登記法が改正され、新たに「筆界特定制度」が創設された。また、国土交通省としては、平成16年から地籍調査の推進に向けた基本調査として「都市再生街区基本調査」が実施されている。
わが国の地籍整備が、今このように歴史的に大きな転機にあるとの認識のもと、この現状を正しく理解、共有するとともに、地籍整備を担う様々な専門家の視点から現段階での評価の試みと、韓国・台湾の有識者の方々の研究論文や助言を参考に、平成検地の進むべき方向の議論がなされた。
・コーディネーター 清水英範(東京大学大学院工学系研究科教授)
【第2会場】テーマ:『地籍の研究と地籍教育の確立』(参加者:小松副理事長)
地籍に関する現場での取組みが脚光を浴びつつあるとはいえ、その内容は極めて多岐にわたり、学際分野、業際分野にわたることが多い。そのこともあって、わが国においては『地籍』について大学や専門学校等の教育機関で専門教育が実施されている例はごくわずかであり、この領域が学問分野として必ずしも確立された領域にあるとは言い難い。今後のわが国の地籍に関する分野の充実発展のためには、地籍教育の確立を図ること、学術分野としての確立を図ることは喫緊の課題でもある。
それらの課題克服のため韓国・台湾の地籍学会に於ける現状報告を受け、その研究教育体制を参考に日本として何をしなければならないのかについて討論が行われた。
・コーディネーター 西本孔昭(日本土地家屋調査士会連合会研究所長)
・サブコーディネーター 安西弘康(明海大学不動産学部教授、土地家屋調査士)
【第3会場】テーマ:『境界紛争解決に挑む土地家屋調査士の新たなステージ』
地図・境界の専門資格者として、そのいずれにも関与する土地家屋調査士の役割、表示に関する登記制度のあり方等について討議がなされた。
【第4会場】テーマ:『会員研究論文発表』(参加者:酒井総務部長)
開催地の土地家屋調査士会として本シンポジウムに特別協力を頂いた京都土地家屋調査士会の古都・京都における地図・境界問題の実務に関する研究発表をはじめ、全国の土地家屋調査士会、各公共嘱託登記土地家屋調査士協会、並びに会員有志の研究グループ等による研究成果の発表が行われた。
・研究発表者とテーマ
| 論 文 テ ー マ | 会 員 名 | 所属会 | |
| 1 | 京都の地域慣習について | 平塚泉 | 京都会 |
| 2 | 土地の境界と取得時効をめぐる実務的考察 | 中原章博 | 札幌会 |
| 3 | 駐留軍用地の分筆申請のあり方 | 菅野貫司 | 沖縄会 |
| 4 | 幾何学的手法による創造的筆界特定の技法について | 馬渕良一 | 岐阜会 |
| 5 | サーバ型RTK-GPS を用いた支持物変動把握の実験と測量への応用について | 坂元 圴 | 鹿児島会 |
| 6 | 位置参照点によるデータ管理システムの活用 | 上田忠勝、藤木政和 | 滋賀会 |
| 7 | 登記基準点からの登記測量 | 下斗米光昭 | 岩手会 |
京都会からは、洛中の町割り形成の特殊性、京都特有の度量衡(京間、京枡、京畳=柱間の寸法が土地境界を形成)等京都の歴史、地形、地勢を大きく示す各主題図と現在の地図の整合性を図りながら、筆界を明らかにしているという報告があった。
札幌会からは、1街区60間四方、道路幅員20間というように初めに地図ありきの土地柄で、公法上の境界と所有権界が明確に区別されているという報告。
沖縄会からは、アメリカ駐留軍用地が点在し境界の実態証明が困難な地域である。(協議・合意による筆界の確定、所有権界合意線による筆界の特定等)駐留軍用地の分筆申請は現地境界の探索、復元、立会いを省略できるという特殊性もあるという報告。筆界特定制度が1月20日からスタートしたが、調査員からは筆界復元の作業の手順、特定することの困難性が洩れ聞こえてくる。
岐阜会からは、筆界特定作業を系統だった分かり易い簡易な手法の一例の報告があった。幾何学的手法(資料である地図等をアフィン変換等の手法で現況測量図に重ね合わせることにより、現況測量図上に求めるべき推定境界点を生成させ、この推定境界点を、資料図等の精度区分により辺長に対して認められる許容誤差(辺長公差)を加え円弧の交わり部分の範囲と、地積に対して求められる許容誤差を利用して出来る四角形(面積公差)を同時に描くことによって、二重の公差条件を満たす範囲(条件)内で、推定筆界点の位置を、ディスプレイ上の図形の中で確認しながら決定する手法)により、従来の試行錯誤的に複数回計算する非効率なものに比べ、マウスで推定境界点を移動させリアルタイムかつビジュアル的に検証できるとのことだった。
鹿児島会からは、調査士が行なう1筆測量において設置する測量多角点について、RTK-GPS測量を利用する前提でその多角点の精度等を検証する実験が行われたと報告された。今回のシンポジウムの寺田民事局長の基調スピーチの中で基準点の設置と管理の一体化が重要という話があったが、昨今の変化のスピードの速い電子時代に、どこまでのシステム構築が出来たら管理体制が出来たといえるか、特に基準点をはじめ経年とともに変化するデータの管理は容易でない。
滋賀会からは、都市再生街区基準点を活用した地積測量図作成実務における問題点の検証と題して報告があった。滋賀会では3年前に位置参照点として登記基準点1200点を設置した。今回亡失等の調査を行なった結果、全体の12パーセントが亡失していた。アスファルト部分では、5箇所に1箇所の割合で亡失。亡失箇所は、土地の変動率の多い所である。つまりDID地区が多い。これから街区基準点を与点として膨大な情報が生産される。実務において時間の経過により現地に増えていく新点情報をどう扱うか、重複する点情報をどう扱うか、亡失した街区基準点をどのように扱うか(⇒成果算出の過程情報、標識についての永続性の考え方、点の相対位置関係、固定値・平均計算の概念)。街区基準点を使用した地積測量図を作成するということは、データの共有化が目の前に迫っていることだ。情報共有の問題は、皆が均質に情報を知り、扱い、作業が行なえ、報告ができ、情報の更新が行なえるかに掛かってくる。このサイクルを実現するために何が必要か。⇒共通参照フレームの構築(インターネットの活用・情報共有の基盤)、相対位置情報の管理(観測値管理と復元性)、数値による地図の自動更新(平均値による地図の描画)、官民の協働体制(高密度な点の相対関係を維持するための方策)、各組織(連合会・ブロック協議会・単位会)の意識改革と環境整備[制度維持と発展]の必要性についての報告があった。
岩手会からは、登記基準点整備事業の報告があった。平成13年度から開始し、現在の登記基準点の整備状況は、0級73点、1級410点、2級137点、3級2764点、GPS登記多角点32点で合計3416点である。月平均100点を超える登記基準点が登録されているそうだ。登記基準点整備事業の大きな目的は、10mm程度の精度で筆界を特定し、後日境界杭が亡失しても10mm程度の精度で復元をすることで、境界争いのない平和な地域社会への貢献を目指すとしている。
以上、大変ボリュームがあり、拝聴しているだけで疲労感を覚えたが、調査士の新しいステージへのステップアップのヒントになる研究発表会だったと思う。今後も是非続けて頂きたいと感じた。