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支所研修会だより

広報理事 今野功

 去る8月25日、調査士会石巻支部と公嘱協会石巻支所共催により、石巻市文化センターを会場に、講師として元日本土地家屋調査士会連合会副会長青野正昭氏を招いて、「土地境界確定協議と筆界」を題材に研修会が開催されました。
 両支部・支所は平成14年5月にも元仙台法務局長藤原勇喜先生による、「公図と法定外公共物・公図と登記制度」の講演内容を、2002VOL.5の「宮城公嘱NEWS」に掲載しています。
 今回の研修会も前回の講演内容と関連した内容として位置づけています。
 開催に当たり、主催者を代表して石川寛敏当協会石巻支所長の挨拶、次に当協会を代表して小野温平理事長より挨拶をいただきました。
 研修対象者は前回と同様に支部会員・支所社員、国(国土交通省関係機関)・県(石巻土木・石巻港湾・東部下水道の各事務所)・石巻市・9町(雄勝・牡鹿・女川・河南・河北・北上・鳴瀬・桃生・矢本)役場の、主に用地及び登記関係に携わる管理職から班長として、職責のある職員の皆さんに受講していただきました。
ちなみに、当日の受講者は総勢48名の参加となりました。
それでは青野正昭先生から執筆投稿していただいた「土地境界確定協議と筆界」について掲載します。

土地境界確定協議と筆界

仙台支所  青 野 正 昭
 (本稿は、8月25日宮城県土地家屋調査士会石巻支部・宮城県公共嘱託登記土地家屋調査士協会石巻支所の合同研修会で管内官公署の担当者の皆様にお話しした内容を基に記述したものです。)

1.境界とは
 一般に筆界という言葉は、なじみが薄い。むしろ土地境界の言葉が理解しやすい。
自然の土地は、海洋に囲まれた範囲において連続し、利用上あるいは課税上特定するため、これを人為的に区画し細分化しています。本稿での土地とは区画し細分化された土地のことを意味します。
 不動産特に土地を取得し自宅を建設する人々にとってさえ、その土地の境界や性格を熟知し行動しているとは限らないために、さまざまなトラブルに巻き込まれることがある。
 いったん紛争がおきれば、平和のうちに解決することは珍しく、争いが拡大して双方共に相手を非難することになる。
 しかし、日常生活では所有者の所有し占有する土地を区画する位置を明確にするために存在する境界標識に関心が無く、驚くべきことには邪魔だから取り除いた事例さえ見られます。
 土地を数える単位は、1個・2個と数えるのではなく、1筆・2筆とかぞえます。そこで相隣接し異なる土地間の境を筆界といいます。
 表示登記手続きは、登記所備え付けて閲覧に供している土地台帳付属地図(いわゆる公図)、17条地図に明記されている区画線(公法上の境界線)を基にしてなされております。
 登記の対象となる土地の現地には残念なことに境界線が引かれておらず、境界線と境界線との交点に当たる箇所を示す境界標識(境界グイ、金属パネル、着色等)が存在することになるわけです。
 現地に存在する境界標識が本来あるべき位置に存在すれば格別問題になりませんが、往々にして見当たらない、あったとしても破損、倒壊、位置のずれが散見され隣接地所有者とトラブルが発生するということになりかねません。
 貴重な財産である所有地の範囲を示している境界標識は日ごろから大切にしたいものです。

2.民事裁判
 不幸にして、お隣さんと境界認識に相違があり話し合いでも解決できないとするならば、民事裁判手続きを行い裁判所の判断を求めることになります。 境界についての民事裁判には、所有権の範囲の確認訴訟と境界確定訴訟の二種類の手続きがあります。

(1) 所有権の範囲の確認訴訟とは
 自己所有地に隣接所有者が、境界線を越境してブロック塀等の工作物を設置しようとした場合、当然にその行為者に工事の中止を申し入れ、かかる行為をやめるよう申し入れますが、その工事をやめない場合には、所有権の範囲(私的境界)の確認を裁判所に求めて、所有権に基づき工作物の撤去を要求することにより紛争を解決する方法です。
 訴訟にあたっては、訴えを提起した原告が主張の正しいことが分かる資料を提出しなければなりません。それは主張する者に証明責任があるからです。訴訟に勝利するためには、主張する事項について裁判官からみて、提起された訴訟事件を客観的に判断するに必要な証拠を積極的に提示し説明する必要があります。こと裁判では一般に原告が主張した事柄について、その言い分が正しいものと認識させる資料(現況を表す図面、伝聞、陳述書等)を提出しなければ敗訴という結果になります。

(2) 境界確定訴訟について 
 境界確定訴訟の性質は、一般的に形式的形成訴訟といわれております。
 通常の形成訴訟は、離婚訴訟のように法律で形成原因の規定がありますが、境界確定訴訟では、具体的規定が無く一切の状況を判断してもっとも合理的な処理をすることにあり、しかも当事者の利害が対立しているために、対等の立場で弁論する機会を持つことから訴訟事件として取り扱われているのです。
 隣接する甲地と乙地との境界が不明あるいは争いがあるときに、その境界の位置を明らかにし確定することを目的とする訴訟です。
 この訴訟においては、原告は単に「甲地と乙地との境界確定を求める」との主張によって訴訟を提起することが出来ます。
 もちろん、原告が甲地と乙地との境界は「あ点とい点を結ぶ線である」として、特定の位置を示すことも出来ます。しかし、裁判官としては、主張にとらわれる事無く、境界に関する資料調査と現地調査によって得られた情報に基づき、独自に境界を定め判決を下すことが出来ます。
 この判決には対世効があるとされ、訴訟当事者である原告被告だけでなく余人をも拘束する効力があります。そのことから、境界確定訴訟判決に基づく境界線をもって申請された表示の登記は処理されることになります。

3.法定外公共物の払下げと境界確定協議
 民有地の所有者が隣接する法定外公共物(道・水路敷)の払下げ申請を行う際には、まずもって、払下げを求める法定外公共物の位置と形状を確定する境界確定協議を行うことになります。境界確定協議に使用される資料は、前記境界確定訴訟に採用されるものと同様なものです。当然に現占有状況もひとつの資料であります。
 確定協議は、境界が不明なために関係土地所有者が協議して境界の位置を求め、その結果得られたものが私的境界線であります。しかし、限りなく公法上の境界線にそったかたちで合意し確定されるものと予定をしております。なぜなら、所有者の単に言い分のみではなく境界に関する資料調査の上での合意だからであります。
 法的には、現行確定協議は、当事者間の私的契約の性質を持つものといえるのではないでしょうか。とすれば、境界確定訴訟において境界確定協議の存在は、公的境界を確定するための一資料に過ぎないといえます。
 ついで、確定協議が所有地の地積更正登記の前提として行われることがあります。 この場合、地積更正登記を申請する土地に他の土地が含まれていることは無いのかを検討してみる必要があります。申請対象地の成り立ちを調査して、地積更正後の地積と更正前の地積とを比較して、その土地が所在する地域内にある他の土地の地積の増加減少割合にも注意を払う必要があります。特に、土地改良事業、耕地整理事業等の施行範囲と接する土地については注意を要します。

4.境界確定協議の効力
 境界確定協議によって定められた私的境界と境界確定訴訟によって得られた公法上の境界(筆界)が不一致の場合どのように取り扱うのか。
 右の様な形状で確定協議が成立した場合に公法上の境界と私的境界に囲まれた空白部分の法的理解は、和解契約によりその部分は相手方に譲渡したものとされます。
 このような結果となりうるのは、一般に土地の境界確定に関する情報が不足していて公図と現占有状況によって境界確定協議をした場合に起こりうることがあります。
 表示の登記は本来公法上の境界に基づき手続きがなされますが、境界不明といっていつもいつも境界確定訴訟の判決によらなければならないとしたなら、大変な負担を申請人に負わせることになります。そこで、隣接土地所有者間でそこに存在する境界を納得合意した境界線を基にした登記申請をしているのが実情です。
 次に、成立した境界確定協議は、所有者の相続人あるいは会社合併等の包括承継人にも効力が及ぶことになります。
 甲地を売買等で取得した特定承継人に対する境界確定協議の効力は、次のように考えられます。
 通常土地売買契約に際して隣接土地所有者の立会いを求め境界確定協議を成立させ、成立した境界線で売却面積を求めております。前記致しました空白部分を除外した面積を算出し対象にしたことから、買受人はその空白部分について所有権を取得できないことになります。

5.境界確定協議と錯誤
 境界確定協議が成立した後に、確定協議自体に錯誤があった場合はどのようになるのか。
 境界確定協議は前記のとおり和解に類似する契約であるとすれば、協議の前提となった要素について錯誤があれば境界確定協議は無効となります。この場合には、関係者の合意のもとに再協議することになります。
 そこで、境界確定協議手続きを正確なものとするために、対象土地の成立ちを調査し現地における状況(地形・地物)、境界標識の有無、現存境界標識の持つ意味を確かめる必要があります。関係官公署保有の資料調査は当然のこと、申請人(対象土地の隣接所有者を含め)が保有している対象土地及び隣接地の境界に関する資料の提出を求め、必要となるものがあれば複写の許可を求めることになります。
 提出された資料についても、何時、誰が、何の目的で作成されたのかを検討し、採用するかどうかを決定する必要があります。作成された時期と現時点の比較による現地の状況の把握、測量方法による測量精度の検討も加味しなければなりません。

6.むすび
 境界確定協議をしようということは、何らかの目的があっての行動ということになります。その最終目的に適切にたどり着いてこそ、その役割を果たしたことになります。
 一筆の土地を分筆して売却する、金融機関に担保として入れる地積更正登記の前提、または建築確認申請の前提、塀を作る、法定外公共物の払下げ申請など目的はさまざまであります。いずれの場合にも境界確定協議の成果が、以後の手続きに反映されることになります。万一不都合が生じますと、裁判になりかねません。
 後日不都合が生じないためには、現在ある境界標識を大切に保管する事と共に、境界標識を写真撮影し日付と撮影箇所、撮影者メモと境界に関する測量図とを一緒に保存する必要がありますし、また、境界標識に隣接する土地において土木工事がなされる際には、往々にして境界標識が抜かれたままに放置され、破損、移動しかねないので注意を払う必要があります。
 私ども土地家屋調査士は、貴重な財産である土地の区画を明確にする境界標識を調査確認し、登記手続きの中でその成果を的確に登記簿に反映させることを一つの業務範囲としております。正しいとされる境界標識を探り出すことは、非常に困難な作業でありますし、探り当てた境界標識を関係者に理解し納得いただくことも難しいことに多々遭遇いたしております。
 土地所有者は勿論のこと、たとえ公共事業であったとしても境界標識付近で作業をなされる工事関係者の皆様にも境界標識を大切にしていただきたいものです。   以上  

参考文献

  1. 民事研修 第384号  法務総合研究所
  2. 第二次改訂版 公共用財産管理の手引  ぎょうせい
  3. 改訂 里道・水路・海浜  ぎょうせい
  4. 官民境界確定訴訟における実務上の諸問題  昭和63年度法務研究報告